■ Column 工房長のサイケデリックな日々 Vol.20
テーマ「フィリピン再び」
年度末、
3月という書き入れ時にスタッフからの冷たい目線をかわし、
去年も訪れたフィリピンに再び赴くことになった。
目的は以前現地で知り合った女性を訪問するため、ではなく、
去年同様にワークショップを行なうためだ。
場所はフィリピンの首都マニラ。
ボホール島とは違い、
せわしなく時が過ぎ、街のうねりを嫌でも感じる都会の真っ只中だ。
今回の目的もDIY+DESIGNをベースに空間やストリートに潜む問題や課題を解決しようという試みであり、
ボホール島でのワークショップがあまりに好評だったため、今年もやろうということになったらしい。
そのため、前回同様、国際交流基金との共同開催の運びとなった。
出発の日、
芦沢は台湾から現地に向かい、ホテルで合流する手はずになっていた。
ちなみに彼は今年、3月のほとんどを海外で過ごしている。
iPadさえあれば、世界中どこにいても仕事ができる環境なので、ある意味羨ましいと思うのは私だけか。
羽田空港で待ち合わせたスタッフのデイビットと共に、フィリピンはマニラ国際空港に到着。
狭い機内と禁煙地獄から解放されて最初に向かうのは喫煙所…
だが、去年来た時にあった灰皿が無い。
どこにも無い。
空港の係員に聞くと「敷地内全部禁煙っすよ」と悲しい言葉が返ってきた。
ホテルに向かうタクシーの車内で運転手氏に聞いたところ、
大統領が変わったんで空港等の公共施設では全て禁煙になったとのことだ。
なんと、体制が変わるとこうも変わるものなのか…
さて、
ワークショップの話を書かなくてはいけない。
マニラ市内にある、
キャピトリオ地区とエスコルタ地区。
どちらも昔は栄えたが、近隣の再開発やなんやかんやで人が減り始め、
衰退が著しい地区だという。
もちろん、戦時中の日本軍侵略やその後のアメリカ軍統治も無関係ではない。
当然地価も下がり、自動的に家賃も安くなる。
そこに目を付けた若いクリエイターが集まり、新しい試みを模索しているそうだ。
まるでここはドイツのベルリンか?
まさにそんな場所になり得る所だと帰る頃にはそう確信していた。
キャピトリオ地区のブリスクトン通りには最近になって食のお店が増えているそうで、
夜には美味しい食事を求めて賑わう人気スポットらしい。
だが気温が高く日差しの強い昼間のブリスクトン通りには問題はあるようだ。
ちょっと座って休む場所が無いという。
付近には屋台を中心にしたお昼ご飯屋さんが沢山存在しているが、
木々や標識の作り出すわずかな日陰に身を隠して手早く食事をし、そそくさと立ち去る様を見ることが多かった。
co.labと呼ばれるブリスクトン通りに面したシェアオフィスを利用するメンバーは業種も様々。
彼らはいち早くこの問題に気が付き、自分たちが活動する拠点周辺を変えたいと思ったそうだ。
そしてもうひとつはエスコルタ地区。
この場所はいわいるチャイナタウンの中にあり、
その一角にそびえる古い百貨店風のビルがあった。
話を聞くとそこは「風」ではなく、元百貨店だったそうだ。
どうりで重厚な佇まいであるわけだ。
エスコルタ地区繁栄の最盛期、そこは日本の銀座のような街並みだったという。
そう言われて改めて付近を観察すると、なるほど交差する道路から建物の配置が銀座に見えてきた。
いや、むしろ銀座が衰退すれば今見ている光景になるに違いない。
豪華な装飾をあしらった天井の高いエントランスや階段、柱1本に至るまで素晴らしい作りではあるが、
もう一歩進めば廃物件になる要素が満載されていた。
中二階の一角には、百貨店のオーナーである初代社長の部屋があり、
そこはオープン当時のビルや繁栄していた頃の地区の資料館として管理され、見学もできる趣となっている。
日本なら間違いなく(下らない理由で)取り壊されるレベルであろうそのビルには、
ブリスクトン同様に若いクリエイターやアーティストが住み着き、
オフィスやショップ、カフェ、スタジオ等を作り上げ衰退からの脱却を図っていた。
廃なものをクリエイティブな感覚でリノベーションする。
それもDIYで。
ビル内でカフェを営む集団とそこに珈琲豆を供給するベンチャー企業、建築事務所を構える若者達。
エスコルタからそんな彼らがワークショップに参加することになった。
手始めに、ビルの共有部分に設置する家具を作り、コミュニケーションの場を作りたいらしい。
Sofaと呼ばれるデザイン学校の一角を借り受け、
石巻工房ワークショップinマニラがスタートした。
そもそもフィリピンにはDIYの土壌が既にある。
彼らは意識はしなくても、結果的にDIYで街が作られているのを散見することができるからだ。
その証拠に街にはハードウェアショップが幾つもある。
日本のように1店舗内で様々なものを売るのではなく、
その素材や用途の専門店が集まり、街の区画を構成している場所もある。
ネジ屋にはネジだけ、電球屋には電球だけ、金物屋に至っては、取手(ドアノブ)だけを扱う専門店まであったりする有様。
日本で言えば生鮮の築地、調理器具の合羽橋といった具合だろう。
完成した彼らの作品を見れば明らかだが、
ボホール島同様に道具が使えるかどうかでDIYスキルが開花するのは間違いないようだ。
難しい技術が無くても、想像力と工夫があればいとも簡単に乗り越えられるその壁。
やり方や結果に正解は無い。
だが、
その背中を押すことができただけでも、
今回石巻工房がフィリピンで行なったワークショップには意味があったと思う。
作品達を設置するためにキャピトリオに戻ってきた。
何も無かった通りの木々の間に橋渡すようなベンチが設置される。
街灯のポールを利用した小さなスツールも、お店の前に置かれたベンチも、一瞬にして通りに溶け込んだ。
街の人も気付かない位に。
あれ?こんな所に座れるやつなんてあったけか?
座れるものがあれば人は自然に座ってしまう。
人が集まる。
私はタバコに火をつけてみる。
話が弾む。
そして笑顔になる。
DIYが通りを変えていく。
やがて世界が変わる。